交通事故における各種の保険制度

自賠責保険会社に支払基準を超える金額を裁判で請求できるか?

自賠責保険においては,法令で保険金・損害賠償金の支払基準が定められていますが,この支払基準が裁判所を拘束するものかどうかについては問題があります。ここでは,この自賠責保険会社に対して支払基準を超える金額を裁判・訴訟で請求できるのかについてご説明いたします。

自賠責保険の支払基準

自賠責保険は,自動車人身事故の被害者保護のために,自動車人身事故における損害賠償の最低限度を保障しようという自動車保険制度です。そのため,加入が法的に強制されており,「強制保険」と呼ばれることもあります。

もっとも,自賠責保険は,あくまで最低限度の損害賠償請求権の保障ですから,被害者が被った全損害をすべて補償しうるというものではなく,その保険金・損害賠償金の支払金額については,法令で上限が定められています。

また,実際の支払いにおいても,法令に基づく支払基準(「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」平成13年12月21日金融庁国土交通省告示第1号)に従って支払いがなされることになっています。

そのため,裁判外での任意交渉の段階においては,この支払基準を超える金額を支払ってくれるということはあり得ないということになります。

→ 詳しくは,自賠世紀保険における支払金額の決定

支払基準の裁判所に対する拘束力

前記のとおり,裁判外での任意交渉段階では,支払基準を超える示談や和解ができるということはありません。それでは,裁判・訴訟の場合はどうなるのでしょうか?

すなわち,裁判・訴訟において,上記支払基準を超える金額を自賠責保険会社に請求することができるのかということが問題となります。言い換えれば,上記支払基準は,裁判所に対しても拘束力を有するのかという問題です。

学説においては,被害者請求・加害者請求を問わず,支払基準はあくまで自賠責保険会社を拘束するにすぎず,裁判所を拘束するものではないというのが通説でしたが,以下のとおり,最高裁判所においても同様の判断がなされたため,実務上は,被害者請求・加害者請求を問わず,支払基準を裁判所を拘束しないものとして扱われています。

被害者請求(16条請求)の場合

被害者請求の場合に,支払基準を超える金額を裁判・訴訟で請求できるのかという点については,最高裁判所第一小法廷平成18年3月30日判決(最一小判平成18年3月30日)があります。

法16条の3第1項は,保険会社が被保険者に対して支払うべき保険金又は法16条1項の規定により被害者に対して支払うべき損害賠償額(以下「保険金等」という。)を支払うときは,死亡,後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準に従ってこれを支払わなければならない旨を規定している。法16条の3第1項の規定内容からすると,同項が,保険会社に,支払基準に従って保険金等を支払うことを義務付けた規定であることは明らかであって,支払基準が保険会社以外の者も拘束する旨を規定したものと解することはできない。支払基準は,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合に従うべき基準にすぎないものというべきである。そうすると,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合の支払額と訴訟で支払を命じられる額が異なることがあるが,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合には,公平かつ迅速な保険金等の支払の確保という見地から,保険会社に対して支払基準に従って支払うことを義務付けることに合理性があるのに対し,訴訟においては,当事者の主張立証に基づく個別的な事案ごとの結果の妥当性が尊重されるべきであるから,上記のように額に違いがあるとしても,そのことが不合理であるとはいえない。

したがって,法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において,裁判所は,法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができるというべきである。

上記のとおり,最一小判平成18年3月30日は,被害者請求においては,支払基準は裁判所を拘束しないという判断を示しました。

したがって,被害者請求の場合には,支払基準を超える金額を裁判・訴訟において請求できるということになります。

ただし,裁判所を拘束しないのはあくまで支払基準です。自賠責保険の上限金額については裁判所をも拘束すると解されていますので,支払基準を超える金額を裁判で請求できるとしても,あくまで「上限金額の範囲内で」という留保がつくことには注意が必要です。

加害者請求(15条請求)の場合

加害者請求の場合について支払基準を超える金額を裁判・訴訟で請求できるのかという点については,最高裁判所第一小法廷平成24年10月11日判決(最一小判平成24年10月11日)があります。

法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において,裁判所は,法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができるというべきである(最高裁平成17年(受)第1628号同18年3月30日第一小法廷判決・民集60巻3号1242頁)。そして,法15条所定の保険金の支払を請求する訴訟においても,上記の理は異なるものではないから,裁判所は,上記支払基準によることなく,自ら相当と認定判断した損害額及び過失割合に従って保険金の額を算定して支払を命じなければならないと解するのが相当である。

上記のとおり,加害者請求の場合も,前記被害者請求の場合と扱いを異にする理由がありませんから,やはり支払基準は裁判所を拘束しないということになります。

もっとも,加害者請求の場合も,裁判所を拘束しないのは,あくまで支払基準だけであり,自賠責保険の上限金額の規定は裁判所を拘束します。

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