交通事故における過失相殺

当事者の主張立証がなくても裁判所は職権で過失相殺できるか?

過失相殺の法的性質に関連して,当事者が過失相殺を主張・立証しなかった場合でも,裁判所は職権で過失相殺することができるのかということが問題となる場合があります。ここでは当事者が過失相殺を主張・立証しなかった場合でも,裁判所は職権で過失相殺することができるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。

(著者:弁護士 志賀 貴

民事訴訟における弁論主義

民事訴訟は,私人間の権利義務に関する紛争を解決する手続です。そのため,訴訟においても私的自治の原理を及ぼし,当事者の意思を尊重すべきであるとされています。

そこから,民事訴訟においては「弁論主義」と呼ばれる原理が採用されています。弁論主義とは,判決の基礎となる事実に関する資料の収集・提出は当事者の権能・責任であるとする原理です。

弁論主義によれば,裁判所は,当事者が主張していない事実を判決の基礎とすることはできず,また,当事者が申し出ていな証拠を使って事実を認定することはできないということになります。

そこで,過失相殺においても弁論主義が適用され,当事者が,民事訴訟の場において,過失相殺について何も主張や立証をしなかった場合,裁判所は過失相殺するという判決をすることはできなくなるのか,それとも,裁判所は当事者の主張・立証がなくても職権で過失相殺するという判決をすることができるのか,ということが問題となってきます。

過失相殺の法的性質

前提として,まず過失相殺とはどういう法的性質を持っているのかということを考える必要があります。過失相殺は,被害者の請求に対する抗弁ですが,どのような性質の抗弁なのかという問題です。

この点については非常に多くの学説がありますが,大きく分ければ,以下の見解があります。

  • 当事者から過失相殺をするという権利行使の意思表示と被害者の過失を根拠づける具体的な事実の主張・立証が必要であるという見解(権利抗弁説)
  • 過失相殺の権利行使の意思表示は不要だが具体的事実の主張立証は必要であるとする見解(事実抗弁説)
  • 過失相殺には弁論主義の適用はなく権利行使の意思表示も具体的事実の主張も必要ないという見解(主張不要説)

>> 過失相殺とは?

裁判所の職権による過失相殺の可否

前記のとおり,過失相殺の法的性質については様々な見解があります。

この点について,最高裁判所は,不法行為に基づく損害賠償請求における過失相殺について,裁判所は職権で過失相殺ができ,加害者から過失相殺の主張があることは要しないと判断しています(最三小判昭和41年6月21日)。

この判例をみると主張不要説を採用しているようにも思えます。

しかし,債務不履行における過失相殺についてですが,最高裁判所は,別の判決で,債務者の主張がなくても過失相殺はできるが,債権者に過失があった事実は立証責任を負うという判断をしています(最三小判昭和43年12月24日)。

この判決からすると,不法行為であろうと債務不履行であろうと,最高裁は,過失を根拠づける事実の立証は必要であると考えていると思われます。つまり,事実抗弁説的な考え方をとっていると思われるいうことです。

交通事故事件の実務では,加害者の方で過失相殺の権利行使を積極的に意思表示しないとしても,被害者の過失を根拠づける事実が主張・立証されていれば,過失相殺をするのが通常です。

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