交通事故の加害者に科される刑事責任(刑罰)とは?
交通事故の加害者は,法律上,刑事責任を科される場合があります。ここでは,交通事故の加害者に科される刑事責任(刑罰)についてご説明いたします。
(著者:弁護士 志賀 貴)
加害者の負う刑事責任
交通事故の加害者は,さまざまな法的責任を負うことになります。具体的には,刑事責任,行政上の責任,民事責任があります。
民事責任とは,要するに,損害賠償責任です。被害者に対して,交通事故によって被った被害を填補するために損害賠償をしなければならないという法的責任です。
また,公益的な見地から,自動車運転免許の取り消しなどの行政上の責任を課される場合もあります。
そして,この行政上の責任と同様に,公益的な見地から加害者に対して科される法的責任として,「刑事責任」があります。端的にいうと,刑事責任とは,刑罰を科されるということです。
>> 交通事故加害者の法的責任
人身事故の場合の刑事責任
人身事故には,被害者が傷害を負った場合と被害者が亡くなられた場合とがあります。さらに,傷害といっても,その程度はさまざまでしょう。
軽微な傷害もあれば,生命侵害に比肩するような重度の障害もありますし,また,後遺障害が残るような傷害というものもあります。
いずれにしても,人の生命や身体という最も尊重されるべきものを侵害しているのですから,その被害は小さくありません。そのため,物損事故よりも重い刑事責任が科されることになります。
特に,自動車事故に関しては,厳罰化の傾向があります。そのため,平成26年5月20日から,新たに「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)」が施行されています。
>> 自動車運転処罰法のQ&A
過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)
自動車事故の場合,被害結果が傷害であれば過失運転傷害罪が,被害結果が死亡であれば過失運転致死罪(併せて「過失運転致死傷罪」と呼ぶこともあります。)が科されるのが通常です。
自動車事故の場合,かつては刑法上の業務上過失致死傷が適用されていましたが,近時の悪質な自動車事故に対して厳罰を科すべく,平成19年に自動車運転過失致死傷罪が刑法において新設され,さらに,上記のとおり,刑法の特別法として自動車運転処罰法が新設されて過失運転致死傷罪が設けられるに至りました。
過失運転致死傷罪の場合,7年以下の懲役もしくは禁錮か,または100万円以下の罰金が科されることになります。
危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条以下)
自動車運転による交通事故のうちでも,特にその内容が悪質なものについては,上記の過失運転致死傷罪ではなく,より重い危険運転致死傷罪という刑罰が科されることになります。
具体的にいえば,正常な運転が困難なほどの飲酒運転,薬物使用運転,高速運転,技能不足状態での運転,信号無視などの場合に,この危険運転致死傷罪が適用されることとになります。
危険運転傷害罪の場合には1月以上15年以下の懲役が科され,危険運転致死罪の場合には1年以上20年以下の懲役が科されることになります。
飲酒運転については,酩酊の程度が正常な運転が困難な程度ではない場合でも,人を負傷させた場合には1月以上12年以下の懲役に,人を死亡させた場合は1月以上15年以下の懲役に処せられ,また,飲酒していたことを隠そうとした場合には,別途1月以上12年以下の懲役に処せられることがあります。
業務上過失致死傷罪等(刑法211条)
前記のとおり,自動車事故については自動車運転処罰法がメインとなりますが,自動車事故以外の交通事故については,この業務上過失致死傷罪の適用がなされます(同条前段)。
業務上過失致死傷罪の場合,1月以上5年以下の懲役もしくは禁錮か,または100万円以下の罰金が科されることになります。
業務上過失致死傷罪に当てはまらないものの,通常の場合よりも過失の程度が重大であるような場合には,重過失致死傷罪(同条後段)が適用されるという場合もあります。近時は,自転車等の交通事故において適用されることが多くなっているようです。
その他の刑罰
前記の各刑罰はあくまで過失による交通事故の場合です。加害者に故意があれば,殺人罪(刑法199条)や傷害罪(刑法204条)ということになるでしょう。
また,刑法犯以外にも,無免許運転,自賠責保険に加入していない場合,車検を通していない場合,事故後に救護義務に違反した場合,飲酒運転の場合などには,道路交通法違反によって刑罰を科される場合もあります。
物損事故の場合の刑事責任
物損事故の場合にも,被害者の方の財産権を侵害していることは間違いありませんから,刑罰を科されるという場合があります。
財産に対する侵害というと器物損壊罪(刑法261条)という犯罪がありますが,この器物損壊罪には過失犯がありません。つまり,過失で他人の財物を壊したりしたとしても,器物損壊罪を科されることはありません。
したがって,物損事故の場合に刑事責任の問題が生ずるとすれば,事故が故意によるものであった場合や道路交通法に違反していた場合に限られるということになるでしょう。
ただし,損壊した物が建造物であった場合には,過失建造物損壊罪(刑法260条前段)の刑事責任を問われることはあり得ます。