後遺障害事故における慰謝料請求とは?
交通事故によって傷害(後遺障害)を負った場合,財産的な損害だけでなく,精神的な損害の賠償として,慰謝料を請求できます。ここでは,後遺障害がある傷害事故における慰謝料請求についてご説明いたします。
後遺障害事故における慰謝料請求
交通事故によって傷害を負った場合,被害者は,財産的な損失を負うだけでなく,精神的な苦痛も被ることになります。特に,後遺障害(後遺症)が残ってしまったような場合には,その精神的苦痛も大きなものとなるでしょう。
そのため,人身・後遺障害事故においては,財産的な損害だけでなく,精神的な損害の賠償を請求することもできます。具体的にいえば,慰謝料を請求できるということです。
もっとも,どの程度の精神的な苦痛を被ったのかというのは,個々人によって違いますし,何より,人の内心に関わることですから,個別に客観的な判定をすることが困難です。
とはいえ,判定が困難だといって精神的な損害を認めないというのも,被害者の保護に反するでしょう。
そこで,後遺障害事故における慰謝料の金額については,これまでの事例の蓄積等によって,実務上,一定の基準が設けられています。
この後遺障害事故における慰謝料の算定の基準は,自賠責保険・各任意保険会社との交渉・裁判でそれぞれ基準が異なります。
自賠責保険における基準
自賠責保険における後遺障害の慰謝料は,後遺障害の等級に応じて定められています。基本となる金額は,後記慰謝料比較表をご覧ください(ただし,被扶養者がいる場合等については,増額されることがあります。
>> 後遺障害等級の一覧表
任意保険会社との交渉段階における基準
任意保険については,かつては,日本損害保険協会による統一基準がありましたが,現在では,保険の完全自由化が認められていますので,各保険会社によって慰謝料の支払い基準が異なっています。
したがって,金額の算定については,各保険会社の慰謝料基準をご参照いただいた方が正確でしょう。
ただし,実際には,自賠責保険基準よりも高額ではあるものの,後記の裁判基準よりはかなり下回っているのが通常です。
>> 任意保険とは?
ADR等における基準
交通事故の損害賠償請求については,各種の裁判外紛争解決機関(ADR)を利用して,示談のあっせん等をしてもらうという方法もあります。
このADR等については,特に基準は設けられていません。また,強制力があるわけではないので,その合意内容はまちまちですが,裁判基準の8割程度で合意をする場合が多いということです。ただし,場合によっては,裁判基準に近い裁定がなされることもあるようです。
>> 交通事故の紛争解決手続
裁判における基準
裁判における慰謝料の金額の基準は,日弁連交通事故相談センター東京支部編の「損害賠償額算定基準(通称「赤い本」)」や日弁連交通事故センター編の「交通事故損害額算定基準(通称「青い本」)」に記載されている基準が用いられるのが一般的です。
これらはいずれも,自賠責保険等と同様に入院日数及び通院日数に応じて慰謝料金額を算定していますが,金額的には,上記自賠責保険等の基準を上回る金額となっています。
金額については,以下の比較表をご覧ください。
慰謝料金額比較表
自賠責保険基準と裁判基準(赤い本の基準)の比較表は,以下のとおりです。
等級 | 自賠責保険基準 | 裁判基準 |
---|---|---|
第1級 | 1100万0000円 | 2800万0000円 |
第2級 | 958万0000円 | 2400万0000円 |
第3級 | 829万0000円 | 2000万0000円 |
第4級 | 712万0000円 | 1700万0000円 |
第5級 | 599万0000円 | 1440万0000円 |
第6級 | 498万0000円 | 1220万0000円 |
第7級 | 409万0000円 | 1030万0000円 |
第8級 | 324万0000円 | 830万0000円 |
第9級 | 245万0000円 | 670万0000円 |
第10級 | 187万0000円 | 530万0000円 |
第11級 | 135万0000円 | 400万0000円 |
第12級 | 93万0000円 | 280万0000円 |
第13級 | 57万0000円 | 180万0000円 |
第14級 | 32万0000円 | 110万0000円 |
(著者:弁護士 志賀 貴)