後遺障害逸失利益

実際の減収が無い場合でも後遺障害逸失利益は認められるか?

交通事故によって後遺障害をが残ってしまったという場合でも,実際には減収が無かったということがあります。このような場合にも後遺障害逸失利益が認められるのかということが問題となります。ここでは,実際の減収が無い場合でも後遺障害逸失利益が認められるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。

後遺障害逸失利益と実際の減収

交通事故で傷害を負い,後遺障害が残ってしまった場合,被害者の方は加害者に対して,逸失利益の損害賠償を請求することができます。

この逸失利益とは,交通事故によって後遺障害が残ったことによって失ってしまった,交通事故に遭わなければ得られたであろう将来の収入分を損害として認めるというものです。

ところが,交通事故によって後遺障害が残ってしまった場合でも,現実には減収が無くて済んだということもあるでしょう。

逸失利益とは将来の減収分を損害として認めるものですから,実際に収入が減少していないということは,将来的に失われる収入もないはずであるので,逸失利益は認められないのではないか,というようにも思えます。

そのため,後遺障害逸失利益の請求においては,実際には減収が無いという場合でも後遺障害逸失利益が認められるのか,ということが大きな問題となってくるのです。

>> 後遺障害事故における逸失利益とは?

実際の減収が無い場合の保険会社の対応

実際の減収が無い場合,加害者側の任意保険会社は,後遺障害逸失利益を認めないという対応をしてくるのが通常です。交渉を継続したとしても,任意保険会社が逸失利益を十分に認めるということはほとんどないといってよいでしょう。

自賠責保険からの保険金・損害賠償金の支払いの場合には,実際の減収がないことを理由に後遺障害逸失利益が認められないということはありません。しかし,支払限度額が少額であるため,後遺障害逸失利益として認められる金額はかなり限定されるか,またはほとんど無いということもあり得ます。

したがって,現実の収入減少が無い場合に,十分な後遺障害逸失利益を請求するためには,訴訟を提起するほかないということになります。

>> 自賠責保険における支払基準一覧表

実際の減収が無い場合に関する判例と裁判実務

実際の減収が無い場合に後遺障害逸失利益が認められるのかという点については,2つの最高裁判所の判例があります。

最高裁判所第二小法廷昭和42年11月10日判決

実際の減収が無い場合に後遺障害逸失利益が認められるのかという点について明確に判示した最初の判例は,最高裁判所第二小法廷昭和42年11月10日判決(民集21巻9号2352頁)です。この判例は以下のように判示しています。

損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、労働能力の喪失・減退にもかかわらず損害が発生しなかつた場合には,それを理由とする賠償請求ができないことはいうまでもない。

上記のとおり,最二小判昭和42年11月10日は,「損害」の捉え方についていわゆる差額説を採用し,現実の減収が無い場合には,現実に「損害」が発生しているとはいえないから,後遺障害逸失利益を請求できないと判断しています。

>> 最二小判昭和42年11月10日の判決文(裁判所HP)

最高裁判所第三小法廷昭和56年12月22日判決

上記最二小判昭和42年11月10日は,実際の減収が無い場合には後遺障害逸失利益は無いということしか判断していませんでしたが,その後,最高裁判所第三小法廷昭和56年12月22日判決によって,修正がくわえられています。この判例は以下のとおり判示しています。

かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても,その後遺症の程度が比較的軽微であつて,しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては,特段の事情のない限り,労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。

ところで,被上告人は,研究所に勤務する技官であり,その後遺症は身体障害等級14級程度のものであつて右下肢に局部神経症状を伴うものの,機能障害・運動障害はなく,事故後においても給与面で格別不利益な取扱も受けていないというのであるから,現状において財産上特段の不利益を蒙つているものとは認め難いというべきであり,それにもかかわらずなお後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには,たとえば,事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて,かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか,労働能力喪失の程度が軽微であつても,本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし,特に昇給,昇任,転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など,後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである。

上記のとおり,最三小判昭和56年12月22日は,基本的には,現実の収入の減少が無い場合には後遺障害逸失利益は認められないとする最二小判昭和42年11月10日を踏襲しているといえます。

もっとも,最三小判昭和56年12月22日は,現実の減収が無い場合には全く後遺障害逸失利益は認められないとするのではなく,「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情」がある場合であれば,現実の減収がなくても後遺障害逸失利益が認められることがあると判断しています。

この最三小判昭和56年12月22日において,実際の減収がなくても後遺障害逸失利益が認められることになる「特段の事情」の例示として挙げられているものには,以下のものがあります。

  • 収入の減収を回復させるために本人が特別の努力をしていることなどによって減収していないだけで,それがなければ減収になっているはずであるというような場合
  • 職業の性質に照らして,昇給・昇任・転職などに際して不利益な取り扱いを受けるおそれがある場合

>> 最三小判昭和56年12月22日の判決文(裁判所HP)

裁判実務における取扱い

実際の減収が無い場合の後遺障害逸失利益については,前記の最三小判昭和56年12月22日の判断が基本とされています。

したがって,実際の減収が無い場合に後遺障害逸失利益が認められるかどうかは,この最三小判昭和56年12月22日にいう「特段の事情」が認められるかどうか,ということになってきます。

下級審の裁判例では,現実の収入の減少が無い場合に後遺障害逸失利益を認めるとした裁判例,認めないとした裁判例のいずれもあります。また,後遺障害逸失利益を認めつつも,労働能力喪失期間を限定した裁判例なども存在しています。

つまり,裁判実務において現実の減収が無い場合に後遺障害逸失利益が認められるかどうかは,まさにケースバイケースであるといってよいでしょう。

「特段の事情」の主張と立証

前記のとおり,現実の減収が無い場合には,「特段の事情」が無い限り,後遺障害逸失利益が認められないというのが判例の考え方です。

そこで,現実の減収が無い場合に後遺障害逸失利益を請求するためには,この「特段の事情」があることを主張・立証しなければならないということになります。

「特段の事情」とは,要するに,実際に収入が減少していないのは,本人が収入が減少しないように特別な努力をしているからであるということや,現在は収入の減少はしていないけれども,将来的には収入が減少する可能性があるということを主張立証していくということです。

最三小判昭和56年12月22日において挙げられている例示を参考にすると,具体的には,以下のような事実を主張・立証していくことになると考えられています。

  • 昇進・昇任・昇給などにおいてどのような不利益を受けるおそれがあるか
  • 業務にどのような支障が生じているか
  • 退職・転職をしなければならない可能性があるか
  • 勤務先の規模・存続可能性等
  • 本人がどのような努力をしているか
  • 勤務先がどのような配慮をしてくれているか
  • 生活上にどのような支障が生じているか

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