誰に対して交通事故の損害賠償を請求すればよいのか?
交通事故の損害賠償を請求する場合,誰に対して請求をすべきかという問題が生じる場合があり得ます。ここでは,損害賠償請求の客体の問題についてご説明いたします。
直接の加害者
交通事故の損害賠償を請求する相手方は誰かといえば,やはり第一次的には,その交通事故を起こした加害者本人ということになるでしょう。
自動車事故の例でいえば,直接の加害者とは運転者ということになります。単車や自転車事故でも,同様に,直接の加害者はその運転者です。
この直接の加害者に対して損害賠償を請求できるということについては争いがありません。
直接の加害者に損害賠償を請求できるということは間違いないのですが,それ以外の人に損害賠償を請求することはできないのかということことが問題となる場合があります。端的にいえば,直接の加害者に支払い能力がないという場合です。
直接の加害者に支払い能力があれば,その直接の加害者に対して損害賠償請求すればよいだけですので,問題はありません。直接の加害者が任意保険等に加入していれば,支払いの面ではさほど問題は生じないでしょう。
しかし,そうでない場合,すなわち,直接の加害者が任意保険等に加入していないような場合,仮に直接の加害者自身に支払能力がなかったときは,直接の加害者以外に損害賠償請求できないかを検討しなければならないこともあり得ます。
運行供用者
自動車事故の場合,「自動車損害賠償保障法(自賠法)」という特別な法律が設けられています。
この自賠法では,直接の加害者だけでなく,「自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)」も自動車事故による損害賠償責任を負担しなければならないことを規定しています。
したがって,自動車事故の場合であれば,直接の加害者だけでなく,この運行強者に対しても損害賠償を請求できるということになります。
この運行供用者とはどのような人のことをいうのかという点については解釈上の争いがありますが,通説的見解によれば,その自動車の運行について運行支配・運行利益のある者と解されています。
具体的にいえば,自動車事故を起こした加害車両の所有者なども,この運行供用者に該当する場合があります。
使用者
交通事故を起こしたのが,業務中であったという場合,その加害者の使用者(雇い主)に対して損害賠償を請求できるという場合があります。
使用者には,従業員がその事業の執行中に起こした不法行為についても,その従業員と一緒に損害賠償義務を負わなければならないという責任を負っています。これを「使用者責任」といいます。
したがって,事業の執行のために自動車を運転していて交通事故を起こした場合などには,その使用者も損害賠償義務を負うという場合があります。この場合には,交通事故の損害賠償を使用者に対しても請求できることになります。
→ 使用者責任とは?
監督義務者
前記の使用者責任と類似するものとして,「監督者責任」というものがあります。
例えば、未成年者が交通事故を起こした場合,未成年者には支払能力がないのが通常です。そこで,被害者保護のため,その未成年者の監督をしなければならない人が責任を負担することになります。これを監督者責任といいます。
未成年者の場合で言いますと,具体的には,親権者が監督義務者ということになるでしょう。したがって,その場合には,親権者に対して損害賠償を請求することができるということになります。
加害者の家族等
加害者の親・兄弟・家族などの親族に対し,親族としての責任をとってもらいたいという話を聴くことは少なくありません。
しかし,親族等は,上記の運行供用者や監督義務者等に当たらない限り,法的責任を負いません。したがって,加害者の親族に対して損害賠償を請求することはできません。