人身・死亡事故において認められる損害(全般)
人身・死亡事故においては,各種の損害が認められることがあります。ここでは,死亡事故において認められる損害(全般)についてご説明いたします。
死亡事故における損害類型
死亡事故は,言うまでもなく,交通事故においても最も重大な事故です。人の命が失われるわけですから,その重大性は計り知れません。
とはいえ,人の生命というものを金銭的に換算するのは非常に困難です。被害者の方のご遺族等からしてみれば,失われた大切な家族の生命を金銭的に換算するなどということは,いたたまれないということもあるでしょう。
しかし,我が国の民法では,不法行為に基づく損害賠償は金銭賠償が原則とされている関係で,死亡事故の場合であっても,その被害を金銭的に換算するほかないということになっています。
金銭的に換算した場合,当然のことながら,傷害事故に比べればはるかに大きな損害として認識されています。そのため,損害賠償金額も大きなものとなることがあります。
この死亡事故における「損害」は,他の人身事故の場合と同様に,財産的損害と精神的損害に区別することができます。
→ 詳しくは,死亡事故における損害賠償請求
死亡事故における財産的損害
死亡事故の場合,被害者の方は将来も含めてすべてを失うわけですから,その財産的な損害も大きくなります。
この財産的損害には,大きく分けると,積極損害と消極損害があります。
→ 詳しくは,財産的損害とは?
積極損害
積極損害とは,交通事故に遭ったことによって余儀なくされた支出を損害とみるというものです。実費弁償に近い性質を持っています。
死亡事故の場合も,当然多くの支出を余儀なくされますから,この積極損害が認められます。死亡事故における積極損害としては,以下のようなものがあります。
→ 詳しくは,死亡事故における積極損害
診療費・治療費・手術費用等
死亡事故の場合であっても,即死でない限り,亡くなられる前に,診療・治療・手術等を受けるのか通常でしょう。この診療費等は,積極損害として認められます。
→ 詳しくは,診療費等は損害となるか?
入院費用・入院雑費
交通事故後,亡くなられるまでの間,入院をしていたという場合,その入院費用は積極損害として認められます。
また,入院をするに際してはさまざまな雑費がかかりますが,この入院雑費も,一定の範囲で積極損害として認められます。
通院交通費
死亡事故の場合には,通院をするということはあまりないでしょうが,仮に亡くなられるまでの間通院をしていたという場合には,この通院のための交通費も積極損害として認められます。
付添看護費
入院中などには,誰かの付添が必要となるということがあります。死亡事故の場合であっても,亡くなられるまでの間,付添が必要な状況があるということがあり得ます。
この場合,誰かが付添をしたことについては,それに対する対価として,付添看護費が一定の範囲で積極損害として認められることがあります。
葬儀費用
死亡事故の場合には,葬儀費用という問題があります。これについても,原則として150万円程度を基本として,積極損害となることが認められています。
弁護士費用・手続費用
死亡事故による損害賠償を請求する場合には,各種の手続費用がかかる場合があります。この手続費用についても,積極損害として認められる場合があります。
また,損害賠償請求を弁護士に依頼した場合,その弁護士費用についても,一定の限度で積極損害として認められています。
→ 詳しくは,弁護士費用は損害となるか?
遅延損害金
交通事故の損害賠償請求権も,交通事故の日から遅延損害金が発生すると解されています。この遅延損害金も,やはり積極損害として認められます。
消極損害
財産的損害には,積極損害のほかに消極損害と呼ばれる損害類型があります。消極損害とは,交通事故に遭わなければ得られたであろう利益を,交通事故によって失ったという場合に,その失った利益(逸失利益)を損害として扱うというものです。
この消極損害には,休業損害と逸失利益(狭義の逸失利益)があります。
→ 詳しくは,死亡事故における消極損害
休業損害
休業損害とは,交通事故による受傷によって休業を余儀なくされた場合,その休業期間中の収入を損害として賠償請求できるというものです。
休業とは,あくまでも生存しているものの就業できない場合をいいますから,即死事案の場合には,休業ということが考えられません。したがって,即死事案の場合には,休業損害は生じないということになります。
もっとも,そうではなく受傷後一定期間を経過した後に死亡したという場合であれば,その死亡までの期間については,休業損害が生じるということになります。
→ 詳しくは,休業損害とは?
逸失利益
逸失利益とは,交通事故による死亡によって,もし生存していたならば得られたであろう利益を消極損害として請求できるというものです。
死亡事故の場合には,もはや被害者の方は働くことなどできませんが,仮に生存していたら得られたはずの利益を損害として扱うことによって,その被害を填補しようとするものです。
死亡事故の場合には,この逸失利益が,損害の大半を占めるということが少なくありません。
→ 詳しくは,死亡事故における逸失利益
精神的損害
死亡事故の場合,被害者の方は生命を奪われるという最も重大な被害を被っています。したがって,その精神的な苦痛は計り知れません。
即死事案の場合には,そのような精神的苦痛もなく亡くなられるので精神的な損害など生じないという見解もありますが,判例・通説は,即死の場合であっても,受傷後死亡までには一定の時間的間隔を観念できるので,その時間的間隔(あるいはコンマ何秒という単位かもしれませんが)の間に精神的苦痛を生じていると考え,精神的損害が生ずると解しています。
実務上も,即死事案か否かを問わず,精神的損害が生ずるという取り扱いをしており,争いはないといってよいでしょう。
→ 詳しくは,死亡事故における慰謝料請求