交通事故における損益相殺

損益相殺と過失相殺はどちらを先に計算すべきか?

損害賠償金額を減額調整する方法として「損益相殺」と「過失相殺」があります。ここでは,損益相殺と過失相殺はどちらを先に計算すべきか(計算の順序・先後)について,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。

損益相殺と過失相殺

不法行為制度は趣旨は「損害の公平な分担」にあります。そのため,いかに不法行為の被害者であっても,被害の回復以上の利益を認めるということはできません。

そこで,損害賠償金額について,公平の見地から,減額調整が行われる場合があります。その具体的な方法として「損益相殺」と「過失相殺」という制度があります。

損益相殺とは,不法行為によって損害を被っただけでなく,別途,何らかの利益も得たという場合に,損害から利益を控除するという制度です。

他方,過失相殺とは,不法行為の被害者にも一定の落ち度があるという場合に,加害者の過失と被害者の過失を割合的に把握して,被害者の過失割合の分だけ損害賠償金額を減額するという制度です。

交通事故による損害賠償請求も不法行為を根拠としていますから,やはり上記の損益相殺や過失相殺の適用があります。

>> 交通事故における損益相殺

計算の順序・先後に関する考え方

前記のとおり,損益相殺と過失相殺とは,公平の観点から損害賠償額を減額調整するというものですが,あくまで異なる制度です。そのため, 1つの交通事故損害賠償請求において,損益相殺と過失相殺の両方が問題となるということも当然あり得ます。

そこで,問題となるのは,損益相殺も過失相殺も両方が適用されるという場合に,どちらを先に計算すべきかということです。

これには,まず過失相殺をしてから損益相殺をすべきであるとする過失相殺後控除説(控除前相殺説),逆に,損益相殺をしてから過失相殺をすべきであるとする過失相殺前控除説(控除後相殺説)があります。

被害者の立場からみれば,過失相殺後控除説よりも過失相殺前控除説の方が有利な結果となります。

たとえば,損害賠償額が3000万円,過失割合が【被害者:加害者=3:7】,損益相殺されるべき利益が1000万円あったとします。

この場合,過失相殺後控除説によれば,まず過失割合によって損額賠償額が2100万円となり,さらに1000万円が損益相殺されるので,結果として損害賠償額は1100万円になります。

他方,同じ事例でも過失相殺前控除説であれば,まず1000万円が損益相殺されて損害額が2000万円となり,それを過失相殺するので,結果として損害賠償額は【2000万円×0.7=1400万円】になり,過失相殺後控除説で計算した場合よりも損害賠償額が増えることになります。

このように損益相殺と過失相殺のどちらを先に計算するのかによって,金額が大きく違ってきてしまう場合があります。それだけに,この両者の順序・先後関係は,実際には非常に大きな問題なるのです。

>> 交通事故における過失相殺

実務上の運用

損益相殺と過失相殺の先後について,最高裁判所は,過失相殺後控除説を採用しています(労災保険給付の控除の事例について最三小判平成元年4月11日政府保障事業の場合の国民健康保険給付の控除の事例について最一小判平成17年6月2日)。

上記各判例からすると,実務上の運用としては,基本的には,やはり過失相殺後控除説が主流であるといえるでしょう。

もっとも,最高裁ではなく下級審裁判例ではありますが,健康保険給付の傷病手当金・高額療養費については過失相殺前控除説を採用するという判断を示したものなどもあります(名古屋地判平成15年3月24日)。

したがって,前記最高裁判例があるからといって,すべての場合について過失相殺後控除説を採用しているとまではいいきれず,損益相殺される給付や利益の内容によっては,過失相殺前控除説が採用される余地があるといえるでしょう。

(著者:弁護士 志賀 貴

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