交通事故における損益相殺

損益相殺によって控除される支出節約型の利益とは?

交通事故の損害賠償請求においては,損益相殺によって支出節約型の利益が損害から控除されるという場合があります。ここでは,損益相殺によって控除される支出節約型の利益とは何かについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします・

損益相殺によって控除される支出節約型の利益

不法行為によって損害を被った反面,何らかの利益を得たという場合,損害から利益を控除する「損益相殺」という措置がとられることがあります。

どのような利益が控除されるのかについては,不法行為制度の趣旨である「損害の公平な分担」の見地から個別具体的に判断する必要がありますが,大きく分類するならば「支出節約型」と「給付型」に分けることができるでしょう。

このうち,支出節約型とは,交通事故によって,本来支出しなければならなかったはずの支出をしないで済んだという場合に,その支出を免れた部分について消極的利益を得た,と考えるというものです。

支出節約型の利益の損益相殺が問題となるのは,ほとんど人身死亡事故の場合です。問題となるものとしては,生活費,税金,養育費などが挙げられます。

>> 交通事故における損益相殺

生活費控除の可否

支出節約型の利益として問題となる最も代表的なものは,生活費です。人身死亡事故における逸失利益の算定において問題となります。

死亡事故の場合,被害者(実際には相続人)は,死亡によって,将来得られるはずだった収入等のすべてを失うことになります。そのため,将来得られるはずだったにもかかわわらず得られなくなった収入等の「逸失利益」を損害として賠償請求できるとされています。

もっとも,死亡事故の場合,被害者ご自身は亡くなられています。したがって,収入等を得られなくなった反面,その被害者の方の生活費はもはや支出しなくてもよくなっています。つまり,生活費を支出しなくてもよいという消極的な利益を得ているわけです。

そこで,実務上,死亡逸失利益の算定においては,損益相殺として,逸失利益から支出を免れた将来の生活費が控除されることになっています。

具体的には,逸失利益の算定において,一定の割合の生活費控除率を基礎収入等に乗ずるという計算方法で生活費を控除することになっています。

>> 死亡逸失利益算定における生活費控除

税金の控除の可否

死亡逸失利益の算定においては,支出節約型の利益として,税金の控除の可否も問題となることがあります。

税金も,前記の生活費の場合と同じように,被害者の方の死亡によって,税金の支払いを免れることになります。そこで,損益相殺の対象となるのではないかということが問題となるのです。

税金控除の問題については,控除すべきとする見解(控除説),高額所得者については控除すべきとする見解(限定控除説),控除すべきではないとする見解(非控除説)がありますが,最高裁判所の判例では,税金は控除すべきではないという非控除説がとられています(最二小判昭和45年7月24日)。

したがって,実務上は,死亡逸失利益の算定において税金控除が問題となることはほとんどないといってよいでしょう(ただし,稀ですが,上記の限定控除説を主張してくる保険会社等はあります。)。

養育費の控除の可否

死亡逸失利益の算定において,支出節約型の利益として問題となるものとして,養育費があります。

死亡事故によって亡くなられた被害者の方が未成年者で,その未成年者の損害賠償請求権を相続した親権者が,離婚した元配偶者に対して養育費を支払っていた場合,養育の対象となる未成年者が亡くなられたことにより養育費の支出が無くなったのであるから損益相殺の対象となるのではないかという問題です。

この問題についても,控除すべきとする見解と控除すべきではないとする見解の対立はありますが,最高裁判所は,養育費は損益相殺として控除すべきではないという見解(非控除説)をとっています(最二小判昭和53年10月20日。ただし,同判決の反対意見は控除説。)。

したがって,実務上は,死亡逸失利益の算定において養育費控除が問題となることはほとんどないといってよいでしょう。

(著者:弁護士 志賀 貴

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