交通事故における財産的損害とは?
交通事故の損害は,財産的損害と精神的損害に分類することができます。ここでは,そのうちの交通事故における財産的損害とは何かについてご説明いたします。
交通事故における財産的損害
交通事故の損害賠償請求における最大の論点は,賠償を請求できる「損害」とは何か,という問題です。
交通事故は,大きく分けると,人の生命・身体に損失を与える人身事故(人損事故)と,財産に損失を与える物損事故とに分けることができます。
このうち人身事故の場合には,その損害について,財産的損害と精神的損害に区別されると考えるのが一般的です(なお,物損事故においても精神的損害が問題となることはありますが,物損事故の場合には精神的損害は認められず財産的損害のみが認められると考えられています。)。
実務上,加害行為がなかった場合の利益状態と加害行為がなされた場合の利益状態との「差」を「損害」とみると解されています(差額説)から,財産的損害とは,交通事故がなかった場合の財産状態と交通事故に遭ってしまった場合の財産状態の「差」であるということになるでしょう。
この財産的損害は,さらに,「積極損害」と「消極損害」に区別されると考えられています。
積極損害
積極損害とは,交通事故に遭ったことによって支出を余儀なくされた損失を「損害」とみるというものです。実費弁償の性質を持っているといってよいでしょう。
交通事故に遭った場合,被害者の方は多くの支出を余儀なくされます。
交通事故によって傷害を負ったとすれば,病院で医師の診療・治療を受けなければなりませんが,その際,当然診療費はかかります。手術等の措置が必要であればその費用もかかるでしょうし,入院が必要であれば入院費もかかるでしょう。
死亡事故の場合には,ご遺族の方などは葬儀費用がかかることになります。後遺障害があれば,そのための器具・装具を用意したり,場合によっては,特別の家屋や車両の設備を設けなければならないということもあり得ます。
また,損害賠償を請求するに当たっては,各種の書類等の収集などをしなければなりませんが,これについても費用が掛かりますし,弁護士に依頼するということになれば,その弁護士費用も支出しなければならないことになります。
これら,交通事故によって損害を負ったがために支出しなければならなくなった金銭は,積極損害として,賠償を請求できるということになるのです。
具体的には,以下のような支出が積極損害に当たります。
消極損害
消極損害とは,交通事故に遭わなければ得られたはずの利益を交通事故に遭ったことによって失ってしまった場合に,その失った利益を損害とみるというものです。
得べかりし利益を逸失したという意味で,逸失利益(広義)と呼ばれる場合もあります。
たとえば,交通事故によって傷害を負ったために仕事を休まなくてはならなかったとします。そうすると,当然,その間は,本当はもらえたはずの給料や報酬などの収入がもらえなくなってしまいます。そこで,この本来もらえたはずの収入は消極損害となります。これを「休業損害」と呼んでいます。
また,上記休業損害のほかにも,死亡事故や後遺障害の場合には,別途,逸失利益が生じます。
休業損害を除く逸失利益は,上記広義の逸失利益に対して狭義の逸失利益と呼ばれることがありますが,一般的には,単に「逸失利益」と言う場合には,この狭義の逸失利益のことを指しています。
死亡事故の場合であれば,亡くなった後はもはや利益を得ることはまったく不可能ですし,後遺障害の場合にも,その後遺障害の程度によっては,それまでのように労働することができなくなって同じような収入を得ることができなくなることがあります。
このような,死亡事故や後遺障害事故の場合において,将来得られるはずだった利益を得られなくなった場合,その得られなくなった利益は(狭義の)逸失利益となり,消極損害として賠償を請求できることになります。
つまり,消極損害は,以下のとおり分類できるということです。
- 休業損害
- 逸失利益(狭義)
→ 消極損害とは?
物損事故の場合
物損事故の場合にも,もちろん財産的損害は発生します。
ただし,物損事故の場合には精神的損害は認められないのが通常ですので,財産的損害と精神的損害という区別をすることはあまりないかもしれません。
また,物損事故によって逸失利益が生ずるという場合も稀でしょう。そのため,物損事故の場合には,積極損害が主に争点となる場合が大半です。